サークル『教養強化』のブログ

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優しさについて。あるいは左翼的説教臭さと先生的説教臭さ、そして先生萌え

前提

以下のurlの文章についてのサークル内の対話である。

 

http://www.webchikuma.jp/articles/-/2521

 

湖秋水、にゃにゃまるの二名は文章に反発しているが、山田、新潟の二名はそれぞれ違った立場からの擁護をこころみている。また鵜山は読んでいないため、ほとんど議論には参加していない。

 

このネット記事は、ちくまWebの連載、鳥羽和久『十代を生き延びる 安心な僕らのレジスタンス』「第6回 差別があるままに他者と交わる世界に生きている」である。このブログはマイノリティに対する差別を主題としたものである。次のような文章で締められている。

 

「あなたには、「優しい」世界にも差別があるということに気づいてほしいし、逆に「差別がある」にもかかわらず優しい世界があるという逆説的な世界とも出会ってほしいと思います。そのために、私はこの文章を書きました。」

 

これに対し新潟コメタローがサークルのチャットルームで「文章の前半部分には同意できないが、この最後の文章は良い。」と発言したところ、意外にもほかのメンバーから反響があった。

 

登場人物

鵜山ユウジ:00年生まれ。笠井潔に毒され、否定神学家となってしまう。ケインズ論、貨幣論を構想しているが、先延ばしになってしまっており、全く手がつけられていない。笠井のほかに中野剛志にも影響を受けている。中学生のころ数か月間ネトウヨだった。現在は戦後民主主義者。

 

湖秋水(こ・しゅうすい)外山恒一シンパのJリベラル大学生。

 

新潟コメタロー:20歳、大学生。外山恒一合宿を経て何かを行動したいと思うも何をして良いかわからず、口先だけでもラジカルになろうとした結果、周囲から「ファッション活動家」と呼ばれてしまう。哲学を志している。

 

にゃにゃまる24歳、院生です。いろんなメディアを使った創作をしていて、パフォーマンス、映像、アニメーションとか、わりとなんでもやります。他領域で活動してる同年代の人たちが何を考えているのかに興味があって、参加(`・ω・´)高圧的な年上世代にはうんざり。時々虚無ります。

 

山田陣之祐日本大学芸術学部演劇学科在学。 次号の『暴論』で政治活動に関するエッセイを掲載予定。 来年の2月11日~13日(予定)、池袋にてハロルド・ピンター作『灰から灰へ』を上演予定。 その他、アングラ演劇に関する評論を別のミニコミ誌上で発表予定。 Twitterアカウント @Jinnosuke0930

 

議論

新潟コ:おれはいい文章だと思ったけど、秋水とにゃにゃまるにちょっといわれて……

 

湖秋水:「優しい」ってなんですか?こんな欺瞞的な文章はないよ!

 

にゃにゃまる:(笑)

 

新潟コ:一読して、いい文章だなと思っちゃったんだけど

 

にゃにゃまる:ほんとに!?


湖秋水:はじめサークルのDiscordに新潟コが「いい文章だな」と書きこんでるのみて、はじめは躊躇したんだけど、にゃにゃまるが「「優しい」ってなに?」っていってて、便乗した(笑)

 

新潟コ:でもなんか思っちゃったんだよね。よく読むと全然だめだめだなんだけど

 

山田:書き方はともかく、いってることは正しいんじゃない?

 

にゃにゃまる:いやいや、一番大事な部分をいってないよね

 

新潟コ:一番大事なのっていうのはどういう部分?


にゃにゃまる:なんだろうな……

 

湖秋水:こんなこといって何になるんだって思った。普通にムカついたんだけど、特にこの最後の文章に

 

山田:どこにムカついてるの?

 

湖秋水:「優しい」?だから何?って。差別があるわけじゃん。それこそ暴力があるわけじゃん

 

にゃにゃまる:思い出した。最後、差別があるってことをわかってほしい、みたいな文章だったんだ

 

湖秋水:そうそう。新潟コは逆にマイノリティを実体化してることに腹をたててるみたいだけど、それはいいと思うんだ。最後の文章は心の底からムカついた(笑)

 

にゃにゃまる:うん

 

山田:「優しい」っていうのを「心地いい」って言葉かえたら、納得できない?


湖秋水:だから何?

 

にゃにゃまる:「優しい」ってどういうこと?何をまとめて「優しい」っていってるの?


新潟コ:どういうことなんだろうな……

 

山田:差別って言葉を原義上の意味でいうと、差異によって人の扱い変えるってことだと思うのよ。扱いの差はいろいろあって……たとえば前近代とかは女性が社会的な方面にでれなかったわけだけど、じゃあそれでその当時の女性全員が不幸だったわけではないと思うのよ。そこには確かに差別はある。でも、全員ではないにせよ「心地よさ」もあったはずなんだ。今のポリコレみたいに、とにかく差別はよくないので、めちゃくちゃ気をつけて言葉を選んで喋ってる集団が「心地いい」かというと、そうではなくてキツイと。そういう意味で、差別はないんだけど心地よくない集団もある。そういうことをいいたいんじゃないの?

 

にゃにゃまる:差別がないとはいってないでしょ?

 

湖秋水:そういうことじゃないでしょ?この文章は完全にポリコレ側で、そんな「左翼活動家の人間関係が冷えついてます」なんて話してないよ

 

山田:読み間違えてたかな……

 

湖秋水:山田の話でも、おれは左翼活動家の人間関係の方が欺瞞的じゃなくていいと思うけどね……それは置いといて、この文章でいってるのは、とにかく差別があるってことで、それに対して、「構造的暴力があるとかいってもしょうがないじゃん」、というならわかるんだけど、ここでは、その構造的暴力を親子の愛情とか友人との絆とかで相対化しようとしてるじゃん。相対化できないでしょ、そんなんじゃ。こんな小学生の絵本みたいな話はないと思ったよ

 

にゃにゃまる:最後にいきなり「優しい」って言葉だしてきたよね

 

湖秋水:そうそう

 

にゃにゃまる:この「優しい」が何を指すのかって。でも逆にその何っていうのをあえて書いてるのかと深読みしたけど、でもそうじゃない

 

新潟コ:確かに素朴にいってるっぽいんだよな……。これはどうしようもない文章だ、けどどうしようもない奴でも愛してしまうことはある!!!

 

湖秋水:そういう話になるの(笑)

 

にゃにゃまる:これって誰宛に書いてるの?あともう一つムカついたのは、あなたは気づいてないだけで差別はあるんだよみたいなことを書いてるけど、この人は全人類に差別意識があると思ってて、なのに自分を棚にあげてて……あなたは?

 

湖秋水:そうだよ!自分を棚にあげて最終的に「優しさ」みたいな話になるんだよ。皆さんに「優しさ」を教えてあげます、差別がある世界でも強く生きてくださいみたいな。どうでもいいよそんなことは

 

にゃにゃまる:そうそう

 

新潟コ:確かに差別意識は皆あって、ある種原罪みたいな感じなんだよね。人類が背負った償えない罪みたいな。ポリコレはそれを告発する側にたって、自分の原罪の意識を薄れさせるみたいなところはあると思うんだけど、最後の差別があるにもかかわらず「優しい」世界がある……

 

にゃにゃまる:「優しい」って何って思ったでしょ?

 

新潟コ:いや、「優しい」が何かはおれにもわからないけど……

 

にゃにゃまる:だから具体的なことをなにも書いてないんだって

 

湖秋水:それはだから「優しさ」を具体的に書いても相対化できないから、あえていいぼかしてるんだってこいつは。そういう詐欺師なんだよ、ペテン師だペテン師

 

山田:いや、素朴に書いただけだと思うけど(笑)

 

にゃにゃまる:素朴に、「優しい」世界ってどういうこと?みんなが差別しない世界ってこと?

 

湖秋水:どちらかっていうと、差別があるんだけど、友人との絆があるみたいな話

 

にゃにゃまる:あーわかった。普通に友達と仲よくしてる世界でもってことか

 

湖秋水:そうそう、「そういう素敵な世界もあるんだよ(笑)」っていうクソみたいな話

 

山田:いや違うと思うよ。構造化された差別があるけど、でもそのうえでおれたちはやっていかなきゃならなくて……みんな普通に楽しくて、心地よいけど、その外にはさっき新潟コがいったような、浄化できない原罪としての差別がある。そのうえで、できるだけ差別をなくした方がいいっていう立場なのか読んでないからしらないけど……

 

湖秋水:ええっ。読んでないの!?

 

山田:読んでないよ

 

新潟コ:なくしたほうがいいっていう立場だよ

 

山田:できるだけなくした方がいいんだけど、完全にはなくせないから、そのうえで、「優しい」世界があるよ……差別をゼロにしなければ人間が幸福にならないわけじゃないよ、ってことをいいたいと思うんだけど

 

湖秋水:でも読んでないんでしょ

 

山田:読んでない

 

湖秋水:読んでないのになんでそんな偉そうに説教できたの

 

山田:いや説教してねーだろ別に(笑)

 

湖秋水:この文章はずっと「お前らは差別者だ」って告発する文章なの。

 

山田:そんな感じなのかなーと勝手に思って……

 

湖秋水:告発するんなら告発しきればいいのに、そしたら最後謎の「優しい」世界みたいな


山田:告発しきれないってわかってるからじゃないかな。たとえばフランスって男性名詞、女性名詞ってあるけどさ、あれ結構差別だと思うけど、それをなくそうってなったらちょっと無理じゃん

 

湖秋水:でも本文読んでないんでしょ

 

山田:うん

 

湖秋水:えぇ(笑)。山田はすぐ、人がユートピア的なものを夢みるのはよくない、ちゃんと細かいとこからやっていこうっていう話にしたがるけど―おれはそれこそユートピアだと思うけどそれは置いておいて―ここでいってる文脈はそういうことじゃなくね

 

にゃにゃまる:そうだね。さっき秋水くんがいってたみたいに、仲いい友達でも実は傷ついてる友達がいるっていうのが「優しい世界」だと思う。

 

湖秋水:友達を差別しちゃうこともあるけど、でも「優しい世界」もあるよっていう(笑)

 

にゃにゃまる:(笑)。さっきぼくが重要な部分をいってないっていったのは、書いてる人もそういう差別意識を持っているって自覚を持ってて、みんながそういう差別意識をどうしようもなく人間だから持っちゃうから、そういう意識を持っているうえで、わたしたちはどうするべきかみたいなことを書くべきなのに、あなたは気づいてないということだけを延々と書いていて、なんか結局「優しい」って言葉でまとめたようなことをいっているから、何だこいつ、誰にいってんの?みたいな

 

湖秋水:そう。左翼的説教臭さと先生的説教臭さが奇跡的にミックスされた信じられないほど説教臭い文章で、せめてどっちかでいけよと

 

新潟コ:まあ、完全にそうなんだけど、やっぱりいいなと最後思っちゃったから率直に書いちゃったけど。よく考えたらちょっと違うなと思ったから、騙されてましたね(笑)

 

湖秋水:反省したまえ(笑)

 

新潟コ:いやでもおれはあんまり反省してない、今後もこれはそれなりにいい文章だといい続ける

 

にゃにゃまる:絶対よくない!どこがいいの?


新潟コ:どこがいいとかはあんまないけど……

 

にゃにゃまる:それ騙されてんだよ

 

湖秋水:新潟コははじめの左翼的説教臭さには反応してるじゃん

 

鵜山:……ていうか新潟コって先生好きだよね

 

にゃにゃまる:(笑)

 

新潟コ:先生好きっていうのは実は当たってるんだよな……。それはいいとして。これは個人の好みだから、相対主義に落ち着いて……(笑)。やっぱり原罪というのはあると思うんだよね。罪と告白っていうのがセットで、こうポリコレ的告白っていうのがさ、「わたしも実は差別してきたんです」っていう、牧師になんかこう、語りかけるみたいな感じで、告白をしてると思うんだよね、差別を。そうすることによって、罪を有限化できてしまうんだよ。無限の罪は償えないんだけど、告白することによって罪を償おうとしてるんじゃないかなと思うんだよ

 

にゃにゃまる:この書いてる人が?


新潟コ:この人は告白一回もしてないから

 

にゃにゃまる:そうだよね

 

新潟コ:これはポリコレのお手本みたいな文章だったな

 

湖秋水:おれは、新潟コの左翼的説教臭さに反発して、先生的説教臭さに迎合しているのが許せなかったんだけど(笑)

 

新潟コ:だからまあ、ぼくの先生が好きっていう内なる欲望が出ちゃってるってことで、もういいじゃん

 

                          文字起こし・編集責任:鵜山